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Traffi-Cationトップページ > Traffi-Cation 2020 春号(No.53)

【人、クルマ、そして夢。 第22回】交通コメンテーター 西村 直人

サポカー補助金にみる社会受容性

 いわゆる自動ブレーキという呼び名を改め正式名称としての認知を目指す「衝突被害軽減ブレーキ」と、アクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いなどうっかりミスによる誤った運転操作の抑制を目的とした「ペダル踏み間違い急発進等抑制装置」。
 これら先進安全技術のさらなる普及促進のため「サポカー補助金」※1なるものが令和元(2019)年度補正予算案に織り込まれ令和2(2020)年1月30日に成立しました。

※1「令和元年 12月 13日 自動車局技術政策課 補正予算案に「サポカー補助金」が盛り込まれました」 国土交通省自動車局技術政策課(経済産業省と同時発表)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001320478.pdf?fbclid=IwAR0LKKheAbQ4rlQJepdoVqA1wBIl9xHI6Yz5dBGDkFpbbYGdZ-A_16sOJFY

 このサポカー補助金は、「65歳以上の高齢運転者による衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い急発進等抑制装置が搭載された安全運転サポート車の購入等を補助する」(原文まま)ために使われます。

 補助対象車は、衝突被害軽減ブレーキとペダル踏み間違い急発進等抑制装置の両方を搭載する車両を令和元年度中に満65歳以上となる高齢運転者と、満65歳以上となる高齢運転者を雇用する事業者が、登録車を購入する際に10万円(軽自動車7万円、中古車4万円)が補助されます。
 このうち、衝突被害軽減ブレーキのみを搭載する車両は、登録車6万円(軽自動車3万円、中古車2万円)と減額されます。

 こうした背景を受け、全国各地で “衝突被害軽減ブレーキ体験会” なるものが開催されています。実体験を通じた周知徹底は何よりもすばらしいことです。一方で肝心の伝えるべき要素やカリキュラムに不足があるようにも感じました。
 現状の体感カリキュラムは以下の通りです。まず運転席に係員、そして助手席に被験者の方が乗車し、前走車を模したターゲットに向かって低速で走行します。ターゲットに近づき衝突の危険が迫ってくる段階(衝突予測時間0.8秒前まで)ではシステムによる警報&ディスプレイ表示が行われます。それでもドライバーが回避動作を行わないと、衝突が避けられない段階(衝突予測時間0.8秒以下)でシステムによる自律自動ブレーキが作動、ターゲットにぶつからずに停止します。
 カリキュラム内容は主催者による若干の違いがあるものの、基本的にはこうした衝突被害軽減ブレーキの一連動作を体感します。

 ところで、1991年度から現在も続く国主導の「ASV推進計画」に描かれている衝突被害軽減ブレーキ像では、警報&ディスプレイ表示段階で「ドライバーがブレーキ操作など回避操作を行うこと」を目的としていて、システムが行う自律自動ブレーキに頼ることなくドライバーが危険な状態に近づかないようにすべきであると明文化されています。このことは29年経過した今でもまったく変わりありません。

 その安全哲学を受け継いだ冒頭の体験会では座学も行われていて、システムによる自律自動ブレーキを過信せず、ドライバーが回避操作を行ってください、と丁寧な口頭による説明が行われています。そうしたことから同乗体感された方々は口々に「自動で止まってくれて良かった」、「こんなにすばらしい機能なら装着車に買い換えよう」と前のめり気味に。
 見事、さらなる普及促進につながっています。

 しかしこれでは、機能限界を理解頂いた上での正しい普及とは言えません。いわゆる「社会受容性」との兼ね合いです。この社会受容性は、2020年5月23日までに施行されるSAE Lv3容認文言を含んだ改正道路交通法とも密接な関係があります。

 交通コメンテーターである筆者が考えるカリキュラムの不足点とは、警報&ディスプレイ表示の段階でドライバーがブレーキ操作を行うと、システムによる自律自動ブレーキと比較して、どれだけ停止距離に差が生まれるのかを体感することです。これは65歳未満のドライバーにとっても重要です。

 これにより、 ”自分にとって” 急ブレーキが踏みやすいクルマが選別できるようになることから自ずと社会受容性も高まり、さらなる交通事故数の低減が期待できると考えています。

2019年12月17日、国土交通省から乗用車の衝突被害軽減ブレーキ(AEBS/アドバンスド・エマージェンシー・ブレーキ・システム)国内基準と義務化の内容が公表された※2。GVW(乗員+車両+積荷の重量合算値)に応じ2014年から段階的に義務化が施行されている商用車(トラック&バス)に続く安全対策だ。まずは2021年11月以降に発売される新型の国産車に関して基準を満たした性能を有する衝突被害軽減ブレーキの装着が義務化される。義務化の時点で販売されている車(=継続生産車)は2025年12月以降、同タイミングの軽トラックはさらに後倒しで2027年9月以降に義務化が課せられる。また、正規販売される輸入車の新型車は2024年6月以降、同継続生産車は2026年6月以降、国内基準が適応される。

※2 交通安全緊急対策に係る乗用車等の車両安全対策の措置方針(一覧)
  http://www.mlit.go.jp/report/press/content/001320702.pdf

にしむら なおと
1972年 東京生まれ。交通コメンテーター。得意ジャンルは自動車メーカーのロボット技術、人間主体のITS、歩行者・二輪車・四輪車との共存社会、環境連動型の物流社会、サーキット走行(二輪・四輪)。近年は大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」のメンバーや、東京都交通局のバスモニター役も務めた。(一財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。
2020年-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


 

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