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Traffi-Cationトップページ > Traffi-Cation 2020 春号(No.53)

【特集】新たなクルマ社会における給油所の将来

新たなビジネスの可能性

考えられるビジネス

 給油所の経営を成り立たせるためには、ガソリン販売のみに頼らない、新たなビジネス展開が不可欠です。

 給油所の防災性やユーザーの来店頻度が高いという特徴を活かして地域のコミュニティ拠点として、また公共サービスの出張所等としての活用は図れないでしょうか。
 また、コンビニエンスストアやミニスーパーなど商業施設の併設、宅配ボックスの設置など、選択肢はいくつも考えることができます(図3)。

図3 考えられる新規事業


 このように新たなビジネス展開策は考えられますが、現状では消防法の規制(表1)があり、その実現を阻む壁となっています。

表1 新規事業展開に必要な規制緩和の例

 

規制①「給油とその付帯業務以外はできない」

 給油所は消防法で定められている危険物(可燃性の液体等)を取り扱っているため、業務の内容について、さまざまな基準が設けられていますが、特に新規事業を図る場合の大きな制約となっているのが建築物に関する規定です。

 建築物の用途は「給油またはこれに付帯する業務」とされています。
 つまり「給油やそれに関する業務以外はできない」また「不特定多数の出入りを想定した店舗は作れない」ことが定められています。

 全国石油商業組合連合会(以下、全石連)によると、現在の消防法は1948年に制定された法律で、その中で給油所に関しては、以下のような経緯があったそうです。

「給油所は(木造建築の多い日本における安全確保の面から)本来は危険物を多量に取り扱うコンビナート等の地域で展開するべき危険物取扱所だったのですが、ガソリン車の増加など、クルマ社会の進展を追いかけるような形で、ある意味では、例外的に認められた危険物を取り扱う一般小売店だったのです」
このため、安全確保のために厳しい規制が設けられたことになります。

 また、消防法は他の国家法にはない以下のような特徴があります。
・規定は上位法である消防法に基づくが、具体的な認可等は各市町村の消防が定めている

・国が定めているものであっても地方の判断基準が勝る場合があり、住宅密集地の近隣エリアと、郊外や山間部では認可の判断が異なる

例)コンビニの併設や自販機の設置等に関して、是としている自治体がある一方、その他の自治体の消防署では否と判断されてしまうということが往々にしてある

 こうした判断の相違は隣町同士でもごく普通に見られるようです。
 地域の実情を勘案することは重要ではありますが、時代に合わせた法律の見直しが求められます。

 このような経緯から、コンビニなどの無条件での他業種展開は認められていませんでした。
 しかし、海外ではコンビニが併設されている給油所をよく見かけます(写真①)。

写真① ノルウェー・オスロ市内のコンビニが併設されている給油所。この給油所には電気自動車の充電設備も併設されている。
写真:トラフィケーション2019年夏号(No.51)より

 このことに関して全石連では消防庁に対して、これまで規制緩和の要望を行ってきました。
 その結果、今年(2020年)の4月から、個別審査により「フィールド面の安全が確認されたら許可される」ことになりました。

 少しずつ動き出した規制緩和の動きの下、全石連では今後給油所をコミュニティ拠点として活用できるよう、活動を進めていきたいと考えています。

「地域のコミュニティ拠点化の一員として参加する、あるいは給油所を媒介として他の事業者と一緒にやっていくサービス充実型へ踏み切ろうとする流れが各地で起こってきています。
給油所の休業日には、地域に開放して自由に活動していただけるよう、青空市場やオープンカフェなどの活用を図っていくといった活動を業界として進めているところです」

 

規制②「セルフの給油所でも目視による監視が必要」

 この規制は、セルフ方式の給油所では従業員が店舗内の監視室制御卓から給油許可を行わなければならないというものです。そのため従業員は店舗内の制御卓前に常駐していなければならず、また他の業務を行うことができません。

 従業員が他の業務も行え、生産性の向上を図ることができるようにするため、この規制も、今年の4月から、給油所フィールドから直接目視による安全確認のうえ、タブレット等で給油許可を出せるようになります。

 

規制③「電気、LPGスタンドの設置場所に関する制限」

 上述①、②のような規制緩和が実現する見通しがある一方で、現在検討中とされているのが、普及しつつある次世代車向けのエネルギー供給に関する規制です。

 現状では、水素スタンド併設は規制緩和されたものの、電気充電スタンド併設は安全性(引火防止)のため、給油スペースから6メートル以上(最大11メートル以上)離れていなければなりません。しかし、よほど広い敷地がなければ、そのような土地利用はできません。
※緊急遮断装置などの安全装置を設けていない場合は11メートル。

 今後自動車の電動化がさらに進むことで、既存の充電設備では不足することも予想されます。これに対処するためにも、給油所での設置が促進されるような規制緩和が求められます。

 

規制④「屋根の設置面積に関する制限」

 新規事業のひとつとして考えられる宅配ボックスは、物流業者にとってラスト1マイルでの効率化が図れ、駅や大手スーパーなどに設置されています。
 もし、給油所に設置できれば、給油所利用者だけでなく周辺住民にとっても利便性が増すことが期待できます。
 しかし、そこにもハードルがあります。

「宅配ボックスの上に雨よけの屋根を作ろうとすると消防法的には問題があるのです。
ガソリンの蒸発ガスが滞留しないように、屋根は敷地内の建物面積を除く空地面積の3分の1以下にしなければならない、つまり3分の2以上はオープンにしておかなければならないのです。
屋根をつけることで、オープンスペースが3分の2以下となった場合、屋内給油所扱いとなり、スプリンクラーの設置など、安全面の大きな設備投資を必要とするのです」

 

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